浮気は生物学的にOK?「自然主義的誤謬」とは? | 詭弁を見抜く!論理の間違いシリーズ

浮気は生物学的にOK?「自然主義的誤謬」とは? | 詭弁を見抜く!論理の間違いシリーズ 1024 717 Biz Tips Collection

浮気は生物学的に許される?遺伝子改良は不自然だから間違っている?
世はこのような詭弁にあふれている。論理的に間違っていることをしっかり見抜くには、どんな詭弁があるか頭に入れておくのが早道だ。今回は、自然主義的誤謬(自然主義の誤謬)を紹介する。

 

自然主義的誤謬とは、「である」から「であるべき」に飛躍すること

よくある例を見てみよう。以下のような主張を聞いたことはないだろうか。

「オスはできるだけ多くのメスを追いかけて、より多くの子孫を残すように遺伝子レベルでインプットされている。男が浮気をするのは生物学的にしょうがない。浮気を許すべきだ。」

確かに、オスは遺伝的に浮気しやすいようにできているだろうし、また自然界では一夫多妻の動物の方が多かったりするかもしれない。しかし、そう「である」という事実から、そう「であるべき」という規範は、論理的には導きだせない。

このように、「である」こと(物事の自然な状態)を、ゆえに「であるべき」だ(物事のあるべき状態)と、話を飛躍させるのが、自然主義的誤謬だ。
「である」事実としては、自然界の事柄に言及される場合が多い。

 

自然主義的誤謬の例

いくつか例を見てみよう。

「弱肉強食が自然界の摂理だ。弱者を救う制度はいらない。」
自然界がそうだからといって、人間が作り上げた制度が悪いとはならない。

「我々はずっとこの土地で暮らしてきた。なのでこれからもそうすべきだ。」
ずっと暮らしてきたのは事実だが、未来のあるべき論の根拠にはならない。

「女性が子育てをするのは、哺乳類として自然なことだ。女性は家庭を見て仕事は男性に任せるべきだ。」
別に人間がこれまでの哺乳類に合わせる必要はない。

「生命が死ぬのは摂理。死を受け入れるべきだ。」
これまで皆死んできたからといって、不死や長寿化の研究をするべきでないわけではない。

自然主義的誤謬の1つの注意点は、「である」事実から「であるべき」規範が論理的に導きだせないと言っているだけで、必ずしも文が間違っているとは限らないことだ。
例えば以下の文言は、大多数は正しいと同意するだろうが、論理的には正しくない。
「群れで生きる生物はみな協力しあうようにできている。なので、俺達も個人プレーにならずに互いに協力すべきだ。」

 

自然に訴える論証

自然主義的誤謬と非常に近い詭弁に、「自然に訴える論証」がある。
ほぼ同じなので、多くの場合多少混同しても問題ないが、厳密には論理構成に以下の違いがある。(分ける人と同じものとして扱う人がいる。)

自然主義的誤謬:
AはBである
ゆえにAはBであるべきだ

自然への訴え
隠れた前提:自然であるものは正しい/善い、もしくは自然でないものは間違っている/悪い
Aは自然である
ゆえにAは正しい/善い

自然に訴える論証の例:
「大麻は自然界に存在するものだ。悪いもののわけがない。」
この論理では、トリカブトだって摂取してOKになってしまう。

「遺伝子改良された食べ物は自然界に存在しない。ゆえに廃止すべきだ。」
この論理展開もよく見るが、そんなこと言ったらそもそも農業も育種法も自然界に存在しない。

 

事実→規範は論理的に繋がらない

このように、自然主義的誤謬とは、「である」こと(物事の自然な状態)を、ゆえに「であるべき」だ(物事のあるべき状態)と、話を飛躍させることだ。

こういったもっともらしい主張は、男女の役割や、遺伝子改良などの新技術といった、様々な分野で横行しているので、気をつけよう。

「詭弁を見抜く!論理の間違いシリーズ」では、他にも以下を紹介している。
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権威に訴える論証の解説と例
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