ネゴシエーション

BATNA(バトナ)の本当の意味とは?実践方法とZOPAとの関係 | 交渉フレームワーク
BATNA(バトナ)の本当の意味とは?実践方法とZOPAとの関係 | 交渉フレームワーク 1024 685 Biz Tips Collection

BATNAは交渉相手の心理を読むフレームワークだ。交渉はいわば心理型ゲームともいえる。将棋・チェスといったボードゲームからカードゲームや格闘系ゲームなど、対戦相手の心理を読み取り最適な一手を出すゲームと同種である。今回はBATNAを学び、ビジネス交渉をより優位に進める手立てを解説しよう。

なお、本章で触れる「交渉フレームワーク「ZOPA」の使い方|コレであなたも交渉上手」について確認したい方は本リンクを辿って欲しい。

 

BATNAとはBest Alternative to a Negotiated Agreement

BATNAとはBest Alternative to a Negotiated Agreementの略称である。日本語で調べてみると交渉学では不調時対策案などともっとわかりにくい言葉がでてくる。

一言で言うと、BATNAは「交渉で合意できなかった場合の最も望ましい代替案」のことだ。自分にとっては、最悪交渉決裂してもこうすればいいや、という代替案である。逆に、交渉相手が交渉が決裂した場合にとる可能性が最も高い行動のことである。

例えば、商品Aの価格交渉をしているとする。最悪、自分は別で同様の製品を3,000円で買えるとわかっていれば、それ以上高いようであれば交渉を決裂させてもよい。逆に相手の立場に立っても、相手のBATNAを把握できていれば、相手の承諾する金額の最低ラインがわかる。

 

BATNAの実践方法・本当の使い方

「交渉が決裂した場合にとる可能性が最も高い行動」がわかったところで何をすれば良いかわからない。そんな方も多いのではないだろうか?これがフレームワークの難しいところである。ココからは交渉フレームワーク「BATNA」の利用法について解説する。
交渉フレームワーク「BATNA」の目的は、交渉相手と自身それぞれの選択肢を洗い出すことだ。多くの方がいざ交渉を前にした時にできていないことなので一歩立ち止まって考えるだけで大きな差が出てくる。

①:とりうる選択肢の列挙
自身と相手のとることができる選択肢を列挙する。例えば、自身の場合は他に売り手があるかどうか?逆に相手の場合は他に買い手があるかどうか?選択肢の中には自分で作ることや中古品を買ったりすることもある。このフェーズはあくまで洗い出しなので、ブレインストーミングのように実施して欲しい。

②:選択肢の整理
前フェーズで行った「とりうる選択肢の列挙」で出てきた案を採択した場合の影響を定量的・定性的に分析して欲しい。金額やリスク、手間、他のモノへの影響などの要素が浮かびあがってくるはずである。

③:BATNAの決定
「選択肢の整理」で浮かびあがった要素の交渉締結の最低条件を決定し、それぞれのBATONAを決定していく。ココで注意して欲しいのはそれぞれの要素のに相関関係がある場合だ。例えば、本当は新品が欲しいけど、800円以下なら中古でも良いみたいな状況のことである。この場合、要素を仮置きしてこの条件あればAのようなシミレーションを行ってほしい。忘れがちであるが、交渉の要素が複雑である場合のほうが多く、このシミレーションの作業が交渉締結のための最低条件発掘のためのBATNAの真髄と言えよう。

④:BATNA以下の条件で合った場合のアクションの決定
交渉によってBATNAを達成できなかった場合にどのようなことを実行するかを明確にしておくことも重要だ。これにより、一定の条件以下であった場合に合意しないスタンスを自身の中で明確にすることができるので、条件の変更による心の揺れも防止できる。

重要なのはどのプロセスも自分だけでなく、相手についても実施することだ。相手が想像しにくい場合は、相手の肩書きや職種、年代が近しいなど、属性の近い人物などにヒアリングするのも手だ。実際M&Aの実務現場ではそのようなヒアリングを行うこともある。

また、BATNAは状況の変化によってすぐに変わる。株の市場価格の変動の激しさと同様に周辺環境の変化によって意思決定要素は変わるのである。そのため、交渉現場を迎えるたびにBATNAの把握は都度してほしい。

 

BATNAとZOPAの関係

前述した要素を洗い出して、売り手と買い手のBATNAを並べてみると、価格以外を含めた締結可能なラインが見えてくる。これがZOPAである。以前の記事でZOPAを「売買が成立可能な価格帯」と表現したが、厳密には価格以外にも意思決定に関係する交渉条件はあるので本記事を読んだ方はZOPAの定義をリバイズしておいて欲しい。

 

BATNAを意識するだけで変わってくる

心理型ゲームは以下の順番でプレイヤーレベルが上がっていく。
B:自身のやりたい戦術を確定するレベル
A:相手のやりたいことを予測する
S:相手のやりたいことを予測した上で対応した戦術に組み替える

面白いことにプレーヤーの割合は
B:A:S=20:4:1
程度になるといわれている。冒頭に述べたように交渉においても心理ゲームと同様のことが言え、筆者がこれまで交渉に関するインタビューをしてきても実はほとんどの方がBにいる様に見受けられる。BATNAを意識して書き出すだけで、Aのレベルがどのようなものか理解できるはずなので、一歩上を目指して、より良い交渉を心がけていって欲しい。

まずは基本を知る!ビジネスのためにネゴシエーション(交渉術)を学ぶ①
まずは基本を知る!ビジネスのためにネゴシエーション(交渉術)を学ぶ① 1024 557 Biz Tips Collection

会社買収や事業買収、事業提携と言った大きな話から人材調達、資材調達といった通常業務まで実はビジネスの現場では意外に交渉シーンは存在する。そして、タチの悪い事にそのような状況は突然仕事として発生する。大体のビジネスパーソンはその突然の状況に一時的に交渉術を調べ、付け焼き刃の状態で交渉に臨み、その交渉がうまくいったのか、行かなかったのかあまり明確にせず通常業務に戻っていく。
ネゴシエーション(交渉術)は、日本ではあまり学問としてメジャーではないが、アメリカなど海外のMBAでは一般科目として認知されている。そしてスコットワークスなどの交渉専門の研修会社も存在し、ビジネスパーソンはそのスキルを磨いている。
今回はそれらのネゴシエーション技術を習得するための土台となる交渉に関する基本的な考え方に触れていくことする。

ネゴシエーション(交渉)の本質とは?

交渉を一言で表現すると何であろう。考えて見てほしい。妥協の模索、意思を通すための話し合い、利益の取り合い‥‥。。いろいろ表現の仕方はあるだろうが、この記事を読んでからはネゴシエーション(交渉)を「交換(エクスチェンジ)」と考えてほしい。以下、図を見てほしい。

ある価格交渉における各交渉人の頭の中を図式化したものだ。ここで注目してほしいのは価格以外に条件を考えていると言うことだ。支払い条件や取り扱い条件もビジネスにおいては重要な条件だ。経理から支払いタイミングを遅らせてほしい。倉庫係から受け取り人員が休みがちなので発送の取り扱いを一回の発送で行なってほしい。このような背景から条件が複数あった上で交渉を実施しているのだ。「交換」というのは自身の優先順位の高い条件と相手の優先順位の低い条件、自身の優先順位の低い条件と相手の優先順位の高い条件をマッチングして、入れ替える作業と言えよう。

そんな、都合よく条件のマッチングなんてできるわけないと思う人はいるかも知れない。しかし、実はそのような方は自身の条件をかなり詳細まで落とし込んだ状態で交渉に挑んでいないというのが実情だ。
通常の買い物時、これならいいかなと思ってレジに向かった後に送料がかかるとわかって買うのをやめた事は誰れもがあるだろう。

想定していない悪い条件があるのと同様に、想定していない良い条件も存在する。交渉上手はその良い条件を相手から引き出し交換を成立させるのだ。
買い物の例と同様に後出しの条件が出てきて交渉が破談になるケースは多々ある。事項では交渉が成立する条件を確認することとする。

交渉に臨む前に頭に入れておこう。交渉が成立する条件

交渉が成立する条件は以下の5点を満たしている必要がある。当たり前のことも含まれているが重要な要素なのでしっかり抑えよう。コレが満たされないと予測される場合は、どんなに努力して時間を費やしても意味がないので早々に交渉を切り上げるべきといっても過言ではない。

①最低限2名以上の関係者:当然の話だが、交渉をする相手がいないと交渉は成立しない。また、三角関係のような複数間における利害関係の成立するケースはあるので2名以上という表現になっている。

②取引の設定:交渉が成立した場合、その結果的として必ず取引が行われる。たとえば、お金と商品の交換であったり、商品同士の交換、時にはお金と将来への期待との交換であったりもする。

③取引条件の落としこみ:前項でも説明した自身の取引条件を詳細まで落としこむ作業である。発送料の例をとってもわかるように、想定していなかった要素を少しでも減らすために最低限のこだわりだけでなく、一般的に発生しそうな要素まで検討すべきだ。「この要素はどんな条件でも可」という認識をもつのも③の重要な作業だ。

④相手の認識の把握:相手の認識の把握とは、交渉相手の「目的」と「して欲しいそうなこと」の認識を把握するということだ。こちらの条件が明確になっていても、相手がそれをOKとしてくれなければ取引は成立しない。相手がOKといってくる条件を相手目線から確認する必要がある。もともと、こちらの条件が相手の条件内に納まっていない限りは、どんなにごり押ししても・営業してもただの迷惑行為に過ぎない。論理的に相手がOKしてくれる条件や環境をつくりだす事ができなければ、交渉とは呼べないのだ。

⑤双方の合意:②~③の内容を受けて、最終的に合意が必要である。両者の合意なくして取引は成立しないので、当然、交渉も成立しない。

以上が交渉が成立する絶対条件だ。コレがひとつでも欠けていると取引が破談になったり、交渉とは呼べないシロモノになる。

交渉とは「交換」。相手を知り、自分をよく知ること

今回は交渉を学んでいくための基礎知識として、交渉とはなにか?交渉になるための条件について解説してきた。何事も基本の理解が短期習得に欠かせないものなのでしっかり抑えて欲しい。次回はまた、同様に基礎的な内容として「交渉の種類」と「交渉のプロセス」について解説していきたい。一時期話題になった「ハーバード流交渉術」や「誰もに発生しうる交渉シーン」の例をもちいて解説するので楽しみにしてほしい。

交渉フレームワーク「ZOPA」の使い方|コレであなたも交渉上手
交渉フレームワーク「ZOPA」の使い方|コレであなたも交渉上手 1024 681 Biz Tips Collection

「ZOPA」とは「合意可能領域」のこと。交渉学やネゴシエーションのスキルを磨こうとしたことがあれば誰でも見たことあるフレームワークだ。概念はシンプルだが、実際の交渉現場では利用しにくいと感じている方も少なくないだろう。それは「ZOPA」を交渉テクニックと勘違いしているに過ぎず、フレームワークとしての使い方を知らないがためにそのような状況に陥っているといえる。本記事では実践での使い方も含めて「ZOPA」について解説する。

価格交渉フレームワーク「ZOPA」とは?

ZOPAとはZone Of Possible Agreementの略語で「売買が成立可能な価格帯」の事を指す言葉として交渉学では広く使われている概念だ。交渉の最小単位である2名の取引において、最終的に決定されるであろう価格の幅を把握するために使われる。通常はBATNAという言葉と一緒に説明される事が多いが今回はシンプルに理解を深めてもらう為にBATNAを使わず解説していきたい。

フリーマーケットで服を買うとき皆さん何を考えるだろうか。
サイズが合うか?ほしい色はあるか?デザインはいけてるか?
色々考えて、欲しい服が見つかったとする。
さて、もちろん重要なのは価格だ。フリーマーケットなので、決まった価格はなく、値切り可能だ。
あなたは、いくらまでなら出せるという価格の条件がある。相手にも同じように条件があることを想定して、考えるのがZOPAだ。

買い手がこの商品なら¥1,300までなら買おうと考えているのと同様に、売り手が¥1,200までなら売ってもいい(これ以上は原価割れするなど)と考えていて、この重なる¥1,200~1,300が「ZOPA」、すなわち「売買が成立可能な価格帯」だ。交渉が成立するとすれば、このZOPAの価格帯の中になる。もし、この重なる価格帯がなければ、そもそも交渉成立不可能で、交渉してもお互いに無駄だとわかる。

実際の現場では、例えば買い手は¥1,100~1,300の間で買いたい、売り手は¥1,200~1,400の間で売りたいというように、すでにお互いにある程度の幅が決まっていることが多い。ここで重要なのは、これの売り手と買い手の価格帯がそれぞれの売買するにおいて最も不利な条件(これ以下だと交渉決裂な条件)とできることなら獲得したい条件(あわよくばのゴール)であることだ。

基本的には相手がどのように考えているかを把握し交渉に臨むことが重要であるという考え方である。交渉術を学ぶ方の動機はどのように値下げするかだったりするので、あまり重要性が把握されず利用されないケースが多い。以降ではこのZOPAをどのようにフレームワークとして活用すべきか解説する。

ビジネスにおいてZOPAは意思決定前倒しのためのフレームワーク

先述したとおり、ZOPAは交渉テクニックではない。ZOPAを把握したところで、商品を買い叩く・商品を高く売るためのロジックが形成されるわけではないからだ。では、ZOPAはどのようなシーンで利用されるのか。結論から言うとZOPAはビジネスにおいて意思決定を前倒しするためのフレームワークとして利用される。簡単な例を用いて説明する。
ビジネスで商品の仕入れを行う場面を想像してみて欲しい。どのようなプロセスで商品の仕入れが行われるだろう。あくまで一例に過ぎないが基本的なプロセスを下記する。

画像の例では商品の仕入担当者として社内の関係者に要件を確認した上で、相手方に交渉に行き、その上でまた社内承認を取りにいき、合意に至っている。実際に仕入担当を経験した方や感のいい方ならわかるであろうが、このプロセスで一番面倒なのは自社内の最終合意から契約書に捺印するまでのプロセスだ。それは先方も同じようなプロセスを経ていることを想定すると理解しやすい。つまり、先方も同様に最終合意を相手方内で獲得し合意を取らなければならないため、どちらか(自社または相手方)が社内の合意形成に失敗するとまた交渉が振り出しに戻ってしまう可能性が多いということだ。実は会社における最終合意形成時は一番意見が変わりやすいポイントである。なぜなら、意思決定をするための要素が万全になり、具体的な金額感も見えてくるため、能力の低い意思決定者でも判断が可能となってくるからだ。筆者もM&Aの交渉現場で何度泣かされたかわからない。

交渉の場は水物である。少しでも、時期がずれたり商環境に変化があったりすると条件は変わり、取引は変化する。実際の交渉現場に立ったことがある方なら十分に理解いただけるであろう。社の代表としての交渉人は最後のプロセスを経ずにその場に判子を持っていって捺印できる状況を切実に願っているはずだ。ここで、出てくるのが意思決定前倒しのためのZOPAである。

自社が仕入れを実行するための最も不利な条件とできることなら獲得したい条件を見える化する。それだけだと現場に出てこない意思決定者は現場の不安定な交渉状況を理解できないので、相手次第だといって意思決定をしてくれない。ここで想定しうる相手方の同様の情報を提示し、ZOPAで「売買が成立可能な価格帯」を握るのだ。前述したプロセスで言うところの「詳細・条件交渉」の場面で一定の範囲でならば契約可能という状況をつくるのだ。

つまりZOPAのフレームワークを使えば、「自社としては、この範囲で売りたいと思います。他社の状況を加味するに、どうやらこの範囲内が合意可能な範囲のようです。」のような説明で、ZOPA内での交渉締結の許可を早めにもらってしまえば、上長確認の回数を減らして意思決定のスピードを上げることが可能なのだ。

組織で金銭のやり取りをする場合は必ずZOPAで意思決定の前倒しを

今回は交渉術のひとつとしてよく紹介されているZOPAを確認した。しかし、ZOPAは交渉術というよりはビジネスにおける交渉準備時に利用するフレームワークであることを説明した。以下でZOPAのフレームワークとして重要なポイントを改めて確認する。

・ZOPA=売買が成立可能な価格帯
・売買するにおいて最も不利な条件とできることなら獲得したい条件を確認
・ZOPAですべきことは意思決定の前倒し

交渉術には様々な概念があり、それらはテクニックとして求められているケースが多い。しかし、交渉学として紹介される概念はフレームワークであることが多く、利用シーンをちゃんと理解しないとテクニックとし実践していくことは難しい。ZOPAに付随する概念であるBATNAも同様のことが入れるので次回、また説明していくこととする。また、機会があれば交渉のテクニックについても事例を用いて解説・紹介していきたい。