行動経済学

選択肢で行動を操るテクニック4選 | 行動経済学的マーケティング手法シリーズ
選択肢で行動を操るテクニック4選 | 行動経済学的マーケティング手法シリーズ 1024 768 Biz Tips Collection

自分で決めていると思い込んでいるが、実はさりげない設計によって人は大きな影響を受けていることが多い。逆に言えば、悪用すればそれとなく人々の行動を操ることも可能だ。今回は、用意する選択肢でどのように人が影響を受けるか、テクニックを4つ紹介する。

三択では真ん中を選ぶ。松竹梅の法則

これはなんとなく自分の感覚でもわかるのではないだろうか。「3段階の選択肢があった場合、人は真ん中を選びやすい」という心理のことだ。極端の回避性とも呼ぶ。

例えば、以下の二択だった場合、人は安い方を選ぶ傾向がある。
竹プラン:5,000円
梅プラン:2,000円

しかし、ここに選択肢を1つ追加してみよう。
松プラン:10,000円
竹プラン:5,000円
梅プラン:2,000円

すると、真ん中が選ばれやすくなるのだ。

応用方法は簡単だ。竹の商品を売りたければ、そんな売る気のない松の商品を商品ラインに追加するのだ。
逆に、高級ラインはあまり売れていないからと、取りやめにしてしまうと、全体の売上が下がってしまうかもしれない。

 

追加の選択肢で誘導。妨害効果

タイプの違う選択肢が2つあるとする。どちらかに新たな選択肢を増やすことで、選択を誘導できる。過去に以下のような実験が行われた。

2つの選択肢が与えられた。
①1.50ドルの現金
②2.00ドル相当のボールペン

この2つの選択肢の場合、75%の人が②のボールペンを選択した。合理的な選択ではあるだろう。

一方、以下の選択肢を増やしたパターンを試した。
①1.50ドルの現金
②2.00ドル相当のボールペン
③1.00ドル相当のサインペン2つ(合わせて2.00ドル相当)

すると、50%ほどの人は①の現金を選択したのだ。②と③の方が①より金銭価値が高いにも関わらず、2つの決めづらい選択肢があることによって、①を選択する方が選ぶのが楽だったのだろう。

以下のような同様の研究がある。
ある症状の患者に対して、新しい治療法を推薦するか、専門病院に紹介状を書くか、選ぶ場合、75%が新しい治療法を推薦した。しかし、2つの新しい治療法の推薦と、専門病院への紹介状の3択になった場合、50%が専門病院への紹介状を選択した。

国会議員が、赤字の公立病院を閉じるかどうかの判断を求められた際、66%が閉じる方を推薦した。しかし、これが2つの公立病院のどちらかを閉じるか、閉じないかの判断になった場合、どちらかの病院を閉じる方を推薦したのはたった25%だった。

選択肢が増えた方のジャンルの選択は考えることが増えてしまうので、楽な方を選んでしまう。また、選択肢のデメリットとなる要素を抽出し、同様のデメリットを強調するための他の選択肢を用意し、心理的にデメリットの要素を含む選択肢の選択を妨害するテクニックも可能かもしれない。

 

無意味なおとりの選択肢で誘導。相対性の真相

明らかに選ばないであろう無意味な選択肢を含めることで誘導することも可能だ。有名なケースだが、以下のような研究がある。

2つの選択肢がある。
①Web版の年間購読:59ドル
②Web版+印刷版の年間購読:125ドル

この場合、32%が②のWeb版+印刷版を選択した。

しかし、以下の場合は、結果が違った。
①Web版の年間購読:59ドル
②印刷版の年間購読:125ドル
③Web版+印刷版の年間購読:125ドル

②の印刷版のみの選択は全く無意味だ。同じ金額でWeb版もついてくるので、選ぶ人がいるはずもない。しかし、この意味のない選択肢を加えることで、人々の選択肢が大きく変わった。84%の人が、③のWeb版+印刷版を選択した。

これは、似ているが明らかに劣っている選択肢(②)を加えることで、もう1つの選択肢(③)の魅力度が高く感じてしまう心理が影響していると言われる。2つの選択肢の時よりも、よりお得に感じたのだ。ちなみに先ほどの3択は、実際にエコノミスト誌が提示していたことのあるオプションだ。

同様の研究に以下のようなものがある。
様々なサービス込みのパリ旅行とローマ旅行では、選択が分かれる。しかし、朝食なしのローマ旅行を入れて3つの選択肢にすると、様々なサービス込みのローマ旅行の方が選択されるようになった。

 

選択肢が多すぎると選べない。決定回避の法則

逆に気をつけなければならないのは、この法則だ。「選択肢が多すぎると、人は何も買わない」という傾向がある。先ほどの妨害効果でも同様の効果が見られた。
自分の経験でも、迷った挙句何も買わなかったという経験はないだろうか。人は「決める」という行為に意外とエネルギーを使う。選択肢が多すぎると、色々比較して考えるのが面倒になり、逆に迷って決められなくなってしまうのだ。人は実はできれば決断をしたくない。じゃあ、今度決めよう、となってしまう。

応用方法は簡単で、選択肢を絞る、ということだ。先ほど3択で誘導するというテクニックもあったが、商品ラインナップを6つも7つも選択肢を増やしてしまうと、真ん中を選んでくれるどころか何も選んでくれない可能性が増える。「おすすめ商品」や「売上ランキング」を表示する際も、わざと少なめに表示する方が購入率が上がる場合もあるだろう。

 

選択肢の設計は実は効果がある

選択肢をうまく設計すれば、人の行動をある程度誘導することが可能だ。今回、それに役立つテクニックを4つ紹介した。まとめると以下の通りだ。
・3段階の選択では、人は真ん中を選ぶ
・AかBの2タイプの選択がある時、Bと同じレベルの選択Cを加えると、Aが選ばれやすくなる。
・AかBの2タイプの選択がある時、Bの劣化版の選択Cを加えると、Bが選ばれやすくなる。
・選択肢が多すぎると、人は選択しなくなる。

 

「行動経済学的マーケティング手法シリーズ」では以下も紹介している。
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